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映画出演による敗者目線での幕末維新史研究

東京支社報道部 前田 徹

 新聞がなかった時代には、歴史は常に勝者側の視点で記録されてきた。歴史を敗者の側から見ると何が見えるのだろうか。東京支社で政権交代を目の当たりにして、明治維新に至る歴史観の重要性を実感したこともあり自分なりに幕末史を再考しようと考えた。
 頭で考えるより、まず体験だ。江戸幕府の鎖国政策を転換した井伊直弼が、開国に反対する水戸の脱藩浪士らに暗殺された1860年の「桜田門外の変」。この事件を題材にした映画のロケが1月から3月にかけて茨城県水戸市で行われた。私はエキストラに応募。クライマックスとなる桜田門外での暗殺シーンで、井伊直弼に仕える彦根藩足軽役に抜てきされた。人前で演技をするのは小学生のとき以来。39歳、遅咲きの銀幕デビューである。
 撮影の日。曇り空で気温5度。寒さでわらじを履いた足先の感覚がすぐになくなる。事件の朝、江戸は大雪だったというから、当時の武士はやせ我慢が必要だったはずだ。ついに本番。私は井伊直弼の大名行列の後方で、襲撃に驚いて逃げ出す役。襲われる側から見た桜田門外の変は「恐ろしい」のひと言に尽きた。銃声が響き、馬が暴れ、浪士が刀を振りかざす。桜田門外の変とは、まぎれもなく権力に対するテロリズムであり、井伊直弼はテロの被害者だったのだと気づいた。
 撮影の後、井伊直弼の地元・滋賀県彦根市を訪ねた。彦根城内には井伊直弼の銅像もあり、さすがに地元では顕彰されている。彦根城博物館学芸員の野田浩子さんは「明治政府は、井伊直弼を、260年にわたる幕藩政治体制の象徴として批判の標的にした。その直弼観に今も引きずられている」と指摘する。そのために負の側面が実像以上に強調されてきたというのだ。現在は、井伊家に残る当時の公文書や日記など客観的な資料を元に、新たな井伊直弼像を浮かび上がらせる研究も進んでいるという。
 今回の研修を通じて、映像にこだわる映画の世界を体験できたのは貴重な機会だった。視覚的に過去を再現できる映像の力に活字の表現力は及ばない面がある。かといって、歴史を、テレビや映画だけのコンテンツにしておくのは惜しい。井伊直弼のように、視点を変えると新たな発見や現代につながる因縁に行き当たる。新聞にとっても、歴史は重要なコンテンツになりうると感じている。

(2010年3月15日~4月4日)

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